出音のタイミングと機材の癖

以前、大阪で音響の設備工事を仕事にしている方と一緒に仕事をしていました。
偶々一緒になった音響さんが職人技とも言える技術を持っていていらっしゃいました。
当時関わっていたのはバレエの発表会でした。
バレエの場合、ジャンプのタイミングと音楽が鳴るタイミングをぴったり合わせないといけません。
体が浮いて、トウ(つま先)が舞台の上に着地した瞬間に音楽を鳴らします。
私が仕事でお会いした音響さんは、そのタイミングを掴むのが大変上手で、周りの人も「あれは職人技」とか「神業だ!」と言われていました。最初はどういうことか分かりませんでした。
でも実際その音響さんの仕事を見てみると納得しました。
その方は台本の指示は勿論、ホールの設備の癖と「ここで鳴らす」という脳から腕、そして指先が実際に動く自分の体の癖を全て理解した上で出音していることが分かりました。
元々ホールにはそれぞれの設備に数字では表せない微妙な癖があります。僅かな劣化による動作の鈍りや、最新機種がゆえに過敏すぎる反応などです。その音響さんは沢山のホールの設備のく背を把握し、自分の体の癖をほとんど完全に理解した上で、出音のタイミングをしっかり合わせていたのです。
技術でダンサーの着地した瞬間に華やかなBGMが一気に鳴りだすのを見てとても感動しました。
一見音楽に合わせてダンサーが着地するように見えますが、実際にはダンサーに合わせて音響さんが音を出すのです。それくらい簡単じゃないのかと思っていましたが、実際にはとても難しいということが分かり、私も他の人と同じく「神業だなあ、職人だなあ」と思いました。
「年を取ると自分の体も鈍くなることは意識しておきたいね」と、クールに仰っていたのがとても印象的でした。